労働基準法第16条(賠償予定の禁止)の条文
労働基準法第16条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
労働基準法第16条(賠償予定の禁止)の解説
趣旨:労働契約における違約金・損害賠償額の予定の禁止についての規定
本条は、労働契約における違約金・損害賠償額の予定を禁止した規定です。
本条により、違約金・損害賠償の予定による労働者の不本意な就労や労働契約の継続、身分的拘束等が防止されます。
労働者のみならず親権者・身元保証人にも適用される
本条は、契約当事者が特定されていないため、労働者のみならず、労働者の親権者、労働契約の保証人や連帯債務者、身元保証人にも適用されます。
このため、労働契約、労働契約の保証契約、身元保証契約等にも適用されます。
単なる実損害の損害賠償の請求は問題ない
なお、「本条は、金額を予定することを禁止するのであつて、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではない」とされています。
このため、実際に損害が発生した場合において、その賠償を請求する旨の規定をすることや、使用者による実損害の賠償の請求は禁止されません(発基第17号(昭和22年9月13日)。後掲)。
用語の定義
「使用者」とは?
【意味・定義】使用者とは?
「使用者」とは、事業主または事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
労働基準法第10条
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
「労働契約」とは?
労働契約は、労働基準法では定義がありませんが、労働契約法第6条で、次のような規定があります。
労働契約法第6条(労働契約の成立)
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
【意味・定義】労働契約とは?
労働契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がその労働に対して賃金を支払う契約をいう。
労働契約法での労働契約の定義は、民法上の雇用契約とは若干表現がことなります(特に「使用されて」という部分)。
この違いに注目し、労働契約と民法上の雇用契約について、同じであるとする説(同一説)と別であるとする説(峻別説)があります。
ただし、実務上は、特に考慮する必要はありません。
「違約金」とは?
【意味・定義】違約金とは?
「違約金」とは、あらかじめ契約当事者が合意したものであって、債務不履行があった場合に債務者が債権者に対し給付する金銭であって、主に損害賠償額の予定としてのもの、賠償の最低額のもの、違約罰としてのものの3種類をいう。
違約金は、広い意味で、債務不履行に対するペナルティとして金額が規定されるものです。
このペナルティには、主に以下のいずれかの性質があります。
違約金の性質
- 損害賠償額の予定(後述)
- 最低限の損害賠償額の予定(実損害が上回る場合は当該実損害の賠償請求が可能)
- 損害賠償額とは別の違約罰(違約金とは別計算の実損害の賠償請求が可能)
契約において、違約金がこれらのいずれの性質であるかが判然としない場合は、損害賠償額の予定と推定されます(民法第420条第3項)。
民法第420条(損害額の予定)
1 事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
なお、本条により、いかなる性質のものであっても、違約金を規定数ことは禁止されます。
「損害賠償額の予定」とは?
【意味・定義】損害賠償額の予定とは?
「損害賠償額の予定」とは、あらかじめ契約当事者が合意したものであって、債務不履行について債務者が賠償すべき損害の金額をいう。
損害賠償の予定は、債務不履行について、債務者(本条においては労働者)が賠償するべき具体的な金額があらかじめ規定されたものです。
本条により、損害賠償額の予定を規定することは禁止されます。
労働基準法第16条(賠償予定の禁止)違反の効果・罰則
本条に違反した違約金や損害賠償額の予定の条項は、民事上は無効となります。
本条違反は、労働基準法第119条により、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に該当します。
労働基準法第119条
次の各号のいずれかに該当する者は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
(1)第3条、第4条、第7条、第16条、第17条、第18条第1項、第19条、第20条、第22条第4項、第32条、第34条、第35条、第36条第6項、第37条、第39条(第7項を除く。)、第61条、第62条、第64条の3から第67条まで、第72条、第75条から第77条まで、第79条、第80条、第94条第2項、第96条又は第104条第2項の規定に違反した者
(2)第33条第2項、第96条の2第2項又は第96条の3第1項の規定による命令に違反した者
(3)第40条の規定に基づいて発する厚生労働省令に違反した者
(4)第70条の規定に基づいて発する厚生労働省令(第62条又は第64条の3の規定に係る部分に限る。)に違反した者
なお、本条は、「契約をしてはならない。」となっていることから、本条に反する契約を締結した時点で本条違反となるのであり、違約金や損害賠償額の予定にもとづいて損害賠償金を徴収した時点で本条違反になるのではありません。
労働基準法第16条(賠償予定の禁止)の解釈例規
発基第17号(昭和22年9月13日)
本条は、金額を予定することを禁止するのであつて、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではないこと。
