労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)の条文
労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)の解説
趣旨:前貸債権と賃金との相殺禁止の規定
本条は、労働を条件とした前貸債権と賃金との相殺を禁止した規定です。
「本条の規定は、金銭貸借関係と労働関係とを完全に分離し金銭貸借関係に基づく身分的拘束関係の発生を防止する」ことを趣旨としています(基発第90号(昭和33年2月13日)。後掲)。
なお、「使用者が労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合においても、その貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して労働することが条件となつていないことが極めて明白な場合には、本条の規定は適用されない」とされています(基発第1510号(昭23年10年15月)、基収第3633号(昭23年10月23日)、基発第150号(昭63年3月14日)。後掲)。
用語の定義
「前借金」とは?
【意味・定義】前借金とは?
「前借金」とは、労働契約の締結時または締結後に、就業・労働と賃金による弁済を条件に労働者が使用者から借入れる金銭をいう。
本条により禁止されるのは、あくまで前借金と賃金との相殺であり、前借金そのものが禁止されるものではありません。
ただし、前借金の金銭消費貸借契約について、公序良俗(民法第90条)違反により無効とした判例もあります(最高裁判決昭和30年10月7日。後掲)。
なお、前借金の存在を根拠に、使用者が労働者に対し労働を強制した場合は、労働基準法第5条違反となります。
労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)違反の効果・罰則
本条違反して前借金等と賃金を相殺した使用者は、労働基準法第119条により、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に該当します。
労働基準法第119条
次の各号のいずれかに該当する者は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
(1)第3条、第4条、第7条、第16条、第17条、第18条第1項、第19条、第20条、第22条第4項、第32条、第34条、第35条、第36条第6項、第37条、第39条(第7項を除く。)、第61条、第62条、第64条の3から第67条まで、第72条、第75条から第77条まで、第79条、第80条、第94条第2項、第96条又は第104条第2項の規定に違反した者
(2)第33条第2項、第96条の2第2項又は第96条の3第1項の規定による命令に違反した者
(3)第40条の規定に基づいて発する厚生労働省令に違反した者
(4)第70条の規定に基づいて発する厚生労働省令(第62条又は第64条の3の規定に係る部分に限る。)に違反した者
また、前借金等と賃金との相殺は、賃金の全額払いを規定した労働基準法第24条第1項にも違反することとなります。
労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)の解釈例規
発基第17号(昭和22年9月13日)
(一) 弁済期の繰上げで明かに身分的拘束を伴わないものは労働することを条件とする債権には含まれないこと。
(二) 労働者が使用者から人的信用に基く貸借として金融を受ける必要がある場合には、賃金と相殺せず労働者の自由意志に基く弁済によらしめること。
基発第90号(昭和33年2月13日)
本条の規定は、金銭貸借関係と労働関係とを完全に分離し金銭貸借関係に基づく身分的拘束関係の発生を防止するのがその趣旨であるから、労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融、弁済期の繰上げ等で明らかに身分的拘束を伴わないものは、労働することを条件とする債権には含まれないこと
基発第1510号(昭23年10年15月)、基収第3633号(昭23年10月23日)、基発第150号(昭63年3月14日)
法第十七条の規定は、前借金により身分的拘束を伴い労働が強制されるおそれがあること等を防止するため『労働することを条件とする前貸の債権』と賃金を相殺することを禁止するものであるから使用者が労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合においても、その貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して労働することが条件となつていないことが極めて明白な場合には、本条の規定は適用されない。
基発第712号(平成3年12月20日)
4 育児休業期間中の賃金等
育児休業法上育児休業期間中の賃金支払いは義務付けられておらず、労使の任意の話し合いに委ねられていること。
また、社会保険料の被保険者負担分については、育児休業期間中についても労働者が負担すべきものとされているが、事業主が被保険者負担分を肩代わりする場合には、当該負担分は法第一一条の賃金として取り扱われること(昭和六三年三月一四日付け基発第一五〇号)。したがって、育児休業が終了した後一定年限労働しなければ当該賃金額分を労働者に支払わせるとの取扱いは、法第一六条に抵触するものと解されること。
事業主が育児休業期間中に社会保険料の被保険者負担分を立替え、復職後に賃金から控除する制度については、著しい高金利が付される等により当該貸付が労働することを条件としていると認められる場合を除いて、一般的には法第一七条に抵触しないと解されるが、法第二四条第一項ただし書後段により労使協定が必要であること。また、一定年限労働すれば、当該債務を免除する旨の取扱いも労働基準関係法上の問題を生じさせないこと。
労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)に関連する判例
最高裁判決昭和30年10月7日
酌婦としての稼働契約が公序良俗に反し無効である場合には、これに伴い消費賃借名義で交付された金員の返還請求は許されない。
