労働基準法第5条(強制労働の禁止)の条文

労働基準法第5条(強制労働の禁止)

使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

労働基準法第5条(強制労働の禁止)の解説

趣旨:使用者による労働者に対する労働の強制の禁止を規定

本条は、使用者による労働者の意に反する強制労働を禁止した規定です。

この点について、本条は、奴隷的拘束・苦役からの自由を規定した憲法第18条の「趣旨を労働関係について具体化し労働者の自由の侵害、基本的人権の蹂躙を厳罰を以て禁止し、以て今尚労働関係に残存する封建的悪習を払拭し、労働者の自由意志に基づく労働を保障せんとすることを目的とするもの」とされています(基発第381号(昭和23年3月2日)。後掲)。

日本国憲法第18条

何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

刑法よりも構成要件が広い

本条でいう「暴行」、「脅迫」、「監禁」は、それぞれ刑法に規定があります。

しかしながら、従来は、「刑法による処罰は事実上殆ど行われなかつた」とされています(基発第381号(昭和23年3月2日)。後掲)。

本条は、前述の憲法の趣旨に則り、刑法よりも構成要件が広くすることにより、強制労働に関して厳罰化をした規定となります。

用語の定義

「使用者」とは?

【意味・定義】使用者とは?

「使用者」とは、事業主または事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

労働基準法第10条

この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

本条は、あくまで労働契約にもとづき労使関係にある使用者と労働者に関して適用される規定です。

「暴行」とは?

【意味・定義】暴行とは?

「暴行」とは、労働者の身体に対し不法な自然力を行使することをいう(発基第17号(昭和22年9月13日)等。後掲)。

「暴行」は、刑法第208条に規定する暴行と同義であり、労働者の身体に対し不法な自然力を行使することです(同上)。

なお、「殴る、蹴る、水を掛ける等はすべて暴行であり、通常傷害を伴いやすいが、必ずしもその必要はなく、また、身体に疼痛を与えることも要しない」とされています(同上)。

「脅迫」とは?

【意味・定義】脅迫とは?

「脅迫」とは、労働者に恐怖心を生じさせる目的で本人または本人の親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対して、脅迫者自ら、または第三者の手によって、害を加えるべきことを通告することをいう(発基第17号(昭和22年9月13日)等。後掲)。

「脅迫」とは、刑法第222条に規定する脅迫と同義であり、労働者に恐怖心を生じさせる目的で本人または本人の親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対して、脅迫者自ら、または第三者の手によって害を加えるべきことを通告することです(同上)。

なお、「必ずしも積極的言動によつて示す必要なく、暗示する程度でも足りる」とされています(同上)。

「監禁」とは?

【意味・定義】監禁とは?

「監禁」とは、一定の区画された場所から脱出できない状態に置くことによって、労働者の身体の自由を拘束することをいう(発基第17号(昭和22年9月13日)等。後掲)。

「監禁」とは、刑法第220条に規定する監禁と同義であり、一定の区画された場所から脱出できない状態に置くことによって、労働者の身体の自由を拘束することです(後掲)。

なお、「必ずしも物質的障害を以て手段とする必要はない。暴行、脅迫、欺罔などにより労働者を一定の場所に伴い来り、その身体を抑留し、後難を畏れて逃走できないようにすることはその例である」とされています(後掲)。

欺罔(読み方:ぎもう)とは、何からの目的で騙すことであり、この場合は、監禁を目的として騙すことです。

「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」とは?

【意味・定義】精神又は身体の自由を不当に拘束する手段とは?

「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」とは、精神の作用または身体の行動を何らかの形で妨げられる状態を生じさせる方法をいう。具体的には、長期労働契約、労働契約不履行に関する賠償額予定契約、前借金契約、強制貯金等のこと(発基第17号(昭和22年9月13日)等。後掲)。

労働契約にもとづく場合でも、労務の提供を要求するに当たり、これらの「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」を用いて労働を強制した場合には、本条違反となります(同上)。

この際、「その手段の正当であるか不当であるかによつて本条違反が決定されることになる」とされています(同上)。

「不当に」とは?

【意味・定義】不当とは?

「不当」とは、労働基準法第5条の目的に照らし、かつ個々の場合において、具体的にその諸条件をも考慮し、社会通念上是認し難い程度の手段をいう(発基第17号(昭和22年9月13日)等。後掲)。

「不当」は、必ずしも「不法」なもののみに限られず、たとえ合法的であつても、「不当」なものとなることがあります(同上)。

例えば、賃金との相殺を伴わない前借金が、周囲の具体的事情により労働者に明示のあるいは黙示の威圧を及ぼす場合などが該当します(同上)。

「労働者」とは?

【意味・定義】労働者とは?

「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

労働基準法第9条(定義)

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

「労働者の意思に反して労働を強制」とは?

【意味・定義】労働者の意思に反して労働を強制とは?

「労働者の意に反して労働を強制」するとは、不当なる手段を用いることによって、使用者が労働者の意識ある意思を抑圧し、その自由な発現を妨げて、もって労働すべく強要することをいう(基発第381号(昭和23年3月2日)後掲)。

なお、「必ずしも労働者が現実に『労働』することを必要としない」とされています(同上)。

例えば、「労働契約を締結するに当り『精神又は身体の自由を不当に拘束する手段』が用いられ、それが意識ある意思を抑圧し労働することを強要したものであれば、本条に該当する」とされています(同上)。

これに対し、「詐欺の手段が用いられても、それは、通常労働者は無意識の状態にあつて意思を抑圧されるものではないから、必ずしもそれ自体としては本条に該当しない」とされています(同上)。

労働基準法第5条(強制労働の禁止)違反の効果・罰則

本条違反は、労働基準法第117条により、「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」に該当します。

労働基準法第117条

第5条の規定に違反した者は、これを1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処する。

労働基準法第5条(強制労働の禁止)の解釈例規

基発第381号(昭和23年3月2日)

わが国の労働関係には、今尚暴行脅迫等の手段によつて労働を強制するという封建的悪習が残存しているが、従来かかる強制労働に対する直接の処罰規定がなく、僅かに同時に刑法犯を構成する場合に限つて処罰し得るに過ぎず、しかも刑法による処罰は事実上殆ど行われなかつた。憲法第十八条は、国民の基本的人権として「何人もいかなる奴隷的拘束も受けない。又犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服せられない」ことを保障している。労働基準法第五条は、この趣旨を労働関係について具体化し労働者の自由の侵害、基本的人権の蹂躙を厳罰を以て禁止し、以て今尚労働関係に残存する封建的悪習を払拭し、労働者の自由意志に基づく労働を保障せんとすることを目的とするものである。
既に一九三〇年第十四回国際労働会議で採決された「強制労働の禁止に関する条約案」においても「処罰の脅威の下に強要せられ且つ自ら任意に申出たるに非ざる労務」たる強制労働を禁止することが確認せられていたのであるが、今回本条の制定により始めてこれが完全に実施せられることになつたものであり、その意義は極めて大きい。

発基第17号(昭和22年9月13日)、基発第381号(昭和23年3月2日)、基発第150号(昭和63年3月14日)

「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」とは精神の作用又は身体の行動を何らかの形で妨げられる状態を生じさせる方法をいう。「不当」とは本条の目的に照らしかつ個々の場合において、具体的にその諸条件をも考慮し、社会通念上是認し難い程度の手段の意である。したがつて必ずしも「不法」なもののみに限られず、たとえ合法的であつても、「不当」なものとなることがある。賃金との相殺を伴わない前借金が周囲の具体的事情により労働者に明示のあるいは黙示の威圧を及ぼす場合の如きはその例である。かかる手段はそれ自体としては、労働者が主観的にその精神又は身体の自由を失うと否とにかかわらず、客観的に見て通常人がその自由を失う程度で足りるが、本条の場合この手段を用いることによつて使用者が労働者の意志に反して、労働することを強制し得る程度であることが必要である。

発基第17号(昭和22年9月13日)、基発第381号(昭和23年3月2日)、基発第150号(昭和63年3月14日)

(一)「暴行」とは、刑法第二百八条に規定する暴行であり、労働者の身体に対し不法な自然力を行使することをいい、殴る、蹴る、水を掛ける等はすべて暴行であり、通常傷害を伴いやすいが、必ずしもその必要はなく、また、身体に疼痛を与えることも要しない。

発基第17号(昭和22年9月13日)、基発第381号(昭和23年3月2日)、基発第150号(昭和63年3月14日)

(二)「脅迫」とは、刑法第二百二十二条に規定する脅迫であり、労働者に恐怖心を生じさせる目的で本人又は本人の親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して、脅迫者自ら又は第三者の手によつて害を加えるべきことを通告することをいうが、必ずしも積極的言動によつて示す必要なく、暗示する程度でも足りる。

発基第17号(昭和22年9月13日)、基発第381号(昭和23年3月2日)、基発第150号(昭和63年3月14日)

(三)「監禁」とは、刑法第二百二十条に規定する監禁であり、一定の区画された場所から脱出できない状態に置くことによつて、労働者の身体の自由を拘束することをいい、必ずしも物質的障害を以て手段とする必要はない。暴行、脅迫、欺罔などにより労働者を一定の場所に伴い来り、その身体を抑留し、後難を畏れて逃走できないようにすることはその例である。

発基第17号(昭和22年9月13日)、基発第381号(昭和23年3月2日)、基発第150号(昭和63年3月14日)

(四)「暴行」、「脅迫」、「監禁」以外の手段で「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」としては、長期労働契約、労働契約不履行に関する賠償額予定契約、前借金契約、強制貯金の如きものがあり、労働契約に基づく場合でも、労務の提供を要求するに当たり、「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」を用いて労働を強制した場合には、本条違反となることはいうまでもなく、要はその手段の正当であるか不当であるかによつて本条違反が決定されることになる。

発基第17号(昭和22年9月13日)、基発第381号(昭和23年3月2日)、基発第150号(昭和63年3月14日)

なお、就業規則に社会通念上認められる懲戒罰を規定する如きはこれに該当しないこと。

基発第381号(昭和23年3月2日)

「労働者の意に反して労働を強制」するとは、不当なる手段を用いることによつて、使用者が労働者の意識ある意思を抑圧し、その自由な発現を妨げて以て労働すべく強要することをいう。従つて必ずしも労働者が現実に「労働」することを必要としない。例えば労働契約を締結するに当り「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」が用いられ、それが意識ある意思を抑圧し労働することを強要したものであれば、本条に該当する。
これに反し、詐欺の手段が用いられても、それは、通常労働者は無意識の状態にあつて意思を抑圧されるものではないから、必ずしもそれ自体としては本条に該当しない。